東京高等裁判所 昭和42年(う)2124号 判決 1968年2月15日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
<前略>弁護人の論旨第一点訴訟手続の法令違反の主張について
所論は、被告人が原審において四回にわたり特別弁護人の選任許可を申請したのに、原裁判所は、いずれも、特段の理由を示さないでこれを却下したが、道路交通法違反のような特殊な事件については、被告人が特別弁護人の選任許可を申請すれば、裁判所は、事案の真相究明のため、特段の理由がない限り、これを許可するのが妥当であり、また、被告人が特別弁護人の選任許可を求めた場合には、それは、充分な弁護を求めたい意思の表われであるから、裁判所は、特別弁護人の選任許可申請を却下した場合には、国選弁護人を附する義務があるのに、原裁判所は、かかる義務に違背し、被告人から弁護人依頼権を剥奪したから、原裁判所の右措置は、刑事訴訟法第三六条および憲法三七条第三項に違背するばかりでなく、原裁判所は弁護人の不在のまま審理を進め、被告人が一方的に不利な立場に立たされ、証人に対する反対尋問権も充分に行使し得ないままでいるのに結審し、有罪の判決を言い渡したのであるから、これは、憲法第三七条第一項に違反し、公平な裁判とはいえない旨主張するものである。
しかしながら、特別弁護人の選任を許可するかしないかは、裁判所の裁量によるものであつて、いかに道路交通法違反事件が特殊な事件であるからといつて、被告人から特別弁護人の選任許可申請があつた場合、特別の理由がない限りこれを許可するを妥当とするものとはいえない。また、特別弁護人選任許可申請は、当然予備的に国選弁護人選任申請を含むものとは解されないから、裁判所が被告人の特別弁護人選任許可申請を却下したことにより、当然に刑事訴訟法第三六条による国選弁護人を附すべき義務を負うに至るものではない。記録を調査すると、本件は、いわゆる必要的弁護事件でないばかりでなく、特に国選弁護人を附すべき事由があるとも認められないものであつて、原裁判所は、被告人の特別弁護人選任許可申請を却下して、弁護人のないままで本件の審理を進めているが、被告人に証人に対する反対尋問の機会を充分に与え、かつ、被告人に充分に陳述の機会をも与えており、被告人は、冒頭の人定質問や被告事件に対する陳述の段階では、初の起訴の分についても、追起訴の分についても、つねに黙秘し、検察官申請の証人三名中二名については、充分に反対尋問を行ない、その余の一名については、反対尋問の機会を与えられながら、黙してこれを行なわず、その後、検察官申請の証拠書類については、証拠とすることに同意し、裁判所の被告人質問(公訴事実に関しないもの)には答え、最終陳述にあたつては、右三証人の供述には不満であり、自己はあくまで無罪である旨述べていることが認められるのであつて、所論のように、原裁判所が、被告人の弁護人依頼権を剥奪し、弁護人を附すべきであるのにこれを附せず、あるいは、防禦権の行使について配慮しないで被告人を一方的に不利な立場に置き、不公平な裁判をしたとみるべき事由はない。原審の訴訟手続には、所論のような法令違反は、存しない。論旨は、理由がない。<以下略>(吉田作穂 堀義次 金子仙太郎)